司法試験を実務から考える

司法試験の論文問題を実務の視点から掘り下げています

司法試験の論文試験と判例・裁判例

判例・裁判例の日ごろの学習の仕方です

 

論文試験では判例・裁判例を題材にした問題が頻出です。

なぜでしょう。

私なりの考えをまとめます。

1.司法試験は実務家登用試験であること

 

(1) 実務では条文と判例・裁判例が重要

 

まず司法試験の目的です。

司法試験は実務家登用試験と言われることがあります。

法律の実務(実際の業務)では、条文と判例・裁判例が重要な意味を持ちます。

 

条文があり文言が明確であればそこで問題はほぼ解決です。

文言に解釈の余地があれば、コンメンタール等にあたったり、判例最高裁の裁判)・裁判例を調べます。

 

(2) とくに判例最高裁の裁判)が重要

 

目的から外れるので深い議論には立ち入りませんが、判例は裁判官を「事実上」拘束しているといわれています(判例違反が裁判の上告理由等となっていることは一つの理由といえるでしょう。)。

 

そのため、判例があれば、その判例の射程(この件で当てはまる事案なのか)を検討することになります。

 

判例がなければ、参考になりそうな下級審裁判例や、固まっている実務の運用があるか調べる。

それらもなければ(あるいは固まっていなければ)学説等を調べる。

 

という思考過程を経る実務家が多いはずです。

 

つまり、判例・裁判例の理解がなければ、法律実務家としての仕事はなかなか成り立ちづらいということになります。

 

ですので、実務家登用試験である司法試験で、判例・裁判例を題材にして理解を問いたいという発想になるのは自然です。

 

2.判例・裁判例は問題を出しやすい

 

(1) 現実の事件であること

 

現実の事件の中で出された判断である、判例や裁判例は、(架空の事例と違って)事実関係に穴がなく、判例や裁判例をベースにすれば出題ミスもしづらいという点もあるかもしれません。

 

また、著名な判例や裁判例であれば、多くの法律家が、判断の是非や射程、今後の検討課題等について論評をしていますから、そうした論評を参考に問題を出しやすいという点もあるように思います。

 

(2) 射程にはご注意を

 

なお、特に注意するべきなのは「射程」です。

判例・裁判例と全く同じ問題は試験に出ません。

また、判例・裁判例の理解を問うには、その判例・裁判例から若干ずらした(射程外ともいえる)問題を出して、論述させることが最良です。

違いを意識できていれば判例・裁判例を理解していることが浮き彫りになるはずです。

 

3.比較的新しい判例・裁判例が狙われやすい

 

(1) 法律や判例・裁判例は日々アップデートされる

 

そして過去数年前の重要な判例・裁判例を題材とした問題が出やすいです。

 

法律は日々改正され、判例・裁判例も日々新しい判断が積み重ねられていきますから、法律実務に携わる以上最新の情報に接するのは当然というのは大前提にあるかもしれません。

 

(2) 古い判例・裁判例の理解も問うことができる

 

また、とくに最高裁判例ですが、判例が出される一つの場合として、過去の判例で判断されていない重要な事項について新しい判断を示す必要がある場合が考えられます。

そうして出てきた判例は過去の判例の積み重ねの中で出てきています。

最新の判例の問題を問うことで、過去の判例も含めた広い理解を問うことができるということになります。

したがって、受験生の理解を問いやすく、更に差も出やすいということになろうかと思います。

 

(3) 「数年前」が狙われやすい

 

そして、試験当日の1年前ではなく「数年前」くらいの判例・裁判例が狙われやすいです。

これは、試験問題は本番より相当前に作成されているであろうこと、判例が出されてから数年間の間に、様々な論評が出され、評価が固まってきて、出題もしやすくなっているからであろうと推測されます。