司法試験論文試験では、判例・裁判例を題材にした問題が狙われやすい
というお話をしました。
とはいえ、判例・裁判例は膨大な分量があり、全てに目を通すのは不可能です。
司法試験の学習にあたっては以下のようにメリハリをつけるのがよいと思います。
1.判例百選・年度版の重要判例解説
著名な法律家がセレクトした判例・裁判例ですから、判例百選に掲載されている判例・裁判例はチェックしましょう。
また、過去数年前の判例・裁判例を題材にした問題が出やすいこともお話しました。
年度ごとに出る重要判例解説もチェックしておいた方がよいです。
2.百選の読み方・特に解説にはご注意を
(1) 事案や要旨の抜き出しが不十分なものがある
ただし、百選を全て読めばよいというわけでもありません。
事案や判決要旨の抜き出し方が「実務上有益≒司法試験対策に有効」という意味では不十分なものもあります。
わかりづらいのは読み手の理解力の問題ではなく、執筆者側に問題がある可能性が多分にあります。
事案や判決要旨を一読してわかりづらければ、「迷わず」判例秘書等で原文にあたることをお勧めします
原文にあたると、いわゆる「あてはめ」等についても詳細に書かれており、それに目を通して初めて意味が分かってくる判例・裁判例もあります。
原文を精読しろという意味ではありません(時間的にも厳しいでしょう。)。
大事なポイントに目を通すのが大事です。
(2) 司法試験対策に有益ではない解説もある
解説も要注意です。
学術的には価値があっても、実務上(司法試験対策上)有益ではない解説もあります。
一読してよくわからなければ、何度も読んで無理に理解する必要はありません。
ただし、実務家の解説は必読です(特に刑訴法)。
実務上問題となるポイント(事実の評価や射程など)が書かれており、司法試験上も有効であることが多いです。
また、実務家の解説は平易でわかりやすいです。
実務家の解説を難しいと感じるようでしたら学習不足ととらえた方が良いと思います。
(3) 判例タイムズや判例時報の解説にも意識を
百選掲載の判例・裁判例で、判例タイムズ・判例時報等に載っているものがあれば、そちらの解説の方がわかりやすいことが往々にしてあります。
百選の解説が一読してよくわからない場合には「迷わず」こちらの解説を読むようにした方がよいです。
繰り返しますが、わかりづらいのは読み手の理解力の問題ではなく、執筆側者に問題がある可能性が多分にあります。
(4) 「百選をつぶす」を言葉通り捉えない
なお、学習上「百選をつぶす」という言葉をよく耳にしますが、百選だけ読んでいればいいという意味で使われているのであれば、推奨はできません。
メリハリが大切です。
3.百選の中でも特に重要なもの
(1) 民集・刑集って?
とはいえ、百選も量が多いのも確かです。
その中でメリハリをつけるとすれば、民集・刑集に搭載されている(搭載予定の)判例を意識した方が良いでしょう。
民集とは最高裁判所民事判例集、刑集とは最高裁判所刑事判例集のことです。
わかりやすくいえば、民集・刑集には最高裁判所で出された裁判のうち、重要なものが搭載されています。
(なお、集刑、集民というのは、最高裁判所裁判集. 民事or刑事のことであり別モノです。)
(2) 民集・刑集の判例は調査官解説が出る
そして、民集・刑集に搭載される判例は、事件を担当した最高裁判所調査官による判例解説(調査官解説)が書かれます。
調査官の役割等については割愛しますが、調査官解説には事案の概要と判旨のほか、事案の問題点、これまでの学説の議論状況、判例・裁判例の議論状況、本件の結論に至った経緯、本件の意義、射程や今後の課題等が詳細に論じられています。
調査官解説は解説も平易でわかりやすく、その判例を理解するのに最も重要な資料です。
百選に載っている判例の中で、民集・刑集に搭載されているケースの調査官解説は
できるだけ目を通した方がよいでしょう。
なお、調査官解説では、過去の関連する民集・刑集搭載判例について論じられていることもあります(過去の判例では触れていない論点だったなどの解説が載っていることもあります。)。
それらの過去の判例が百選に載っていない場合でも、気になった場合には芋づる式に調査官解説を一読することも有益です。
(3) 論文試験の出題のヒントが書かれていることも
司法試験では「判例・裁判例から若干ずらした(射程外ともいえる)問題」が出ることがある
という話をしました。
調査官解説には、判旨等に現れていない問題意識や、射程、今後の課題等について述べられているものもあります。
そうした記載は実務上非常に重要ですが、当然、司法試験でも重要になってきます。
(4) 調査官解説なんて読んでいられないよ?
調査官解説なんて読む時間はない。
という方もいらっしゃると思います。
もちろん無理に全てに目を通す必要はありません。
ただ、私の感覚で申し上げると、百選の全てに漠然と目を通すよりも、重要な判例の調査官解説に目を通し、メリハリをつけて学習した方が、学習全体の効果としては高いように思います。
なお、最新の判例の調査官解説は、簡易なものはジュリストの「時の判例」に、詳細なものが月次で発刊される法曹時報に掲載されていきますので、全て読むかはさておき、毎月チェックしておくとよいと思います。
年度(あるいは半期)毎の調査官解説が掲載された『最高裁判所判例解説』という書籍が発刊されるのはもう少し後の話になります。