司法試験を実務から考える

司法試験の論文問題を実務の視点から掘り下げています

自白法則と違法収集証拠排除法則 その1(司法試験論文試験 令和2年 刑事系科目・第2問・設問1・設問2)

更に過去問の検討をしていきます。

自白法則と違法収集証拠排除法則です。

1.なぜ令和2年の問題を選んだか

自白法則や違法収集証拠排除法則は誰もが知っている論点です。

ただ、いわゆるあてはめが難しいことがあります。

また、問いに癖はあるものの、この問題では刑事裁判手続き全体の結論をどう考えるかという実務的なバランス感覚が問われているように思えます。

以上の考えから、選びました。

 

結論の大切さについては、下記の記事もご参照ください。

ozzyy.hatenablog.com

 

2.前提知識

(1) 論点

①任意取調べの限界
②自白法則(偽計による自白)
③自白法則と違法収集排除法則の関係

という最低限の論点は理解しておく必要があります。

 

(2) 判例・裁判例

①については

最高裁昭和59229日決定(百選10版・6事件、11版・6事件)

最高裁平成元年74日決定(百選10版・7事件、11版・7事件)

 

②については

最高裁昭和45年11月25日大法廷判決(百選10版・71事件)

東京地裁昭和621216日判決(百選9版・75事件))

 

③については

東京高裁平成1494日判決(百選10版・73事件、11版69事件)

 

判例・裁判例はきちんと理解しておく必要があったといえるでしょう。

 

どれも百選に載っていて、最高裁判例についてはいずれも刑集搭載判例です。

 

(3) 旧版の百選掲載判例・裁判例までチェック?

ここで、東京地裁昭和621216日判決(百選9版・75事件)をチェックしなければならないのかという疑問があるかもしれません。

 

結論からするとケースバイケースですが、解説者によるということになるでしょう。

 

(百選9版・75事件)の解説は川出敏裕教授が執筆されています。

私の感想ですが、川出教授の解説は非常に平易でわかりやすいため、できるだけ目を通した方がよいです。

 

あとは旧版でも裁判官などの実務家が執筆している判例・裁判例の解説は目を通すべきでしょう。実務家の解説は平易で、更に理論面よりも具体的な事実関係の評価などに焦点を当てていることが多く、司法試験対策上は非常に参考になります。

 

判例の学習の仕方については以下の記事もご参照ください。

ozzyy.hatenablog.com

 

3.設問2の1の学説チックな問題について

(1) 自白法則単独では出題しづらい?

1.自白に対する,自白法則及び違法収集証拠排除法則の適用の在り方について論じなさい。

この問題を初見で見たときに驚いた人もいたのではないかと思います。

近時の試験の傾向として学説チックな出題が見られることもあり、その一環なのかもしれません。

 

私の感覚では、自白法則の論点自体は司法試験上は単純であり、反復自白や不任意自白に基づいて発見された証拠物など捻った出題にしなければ差がつきづらいことから任意性そのものをストレートに問う問題は出づらいと考えていました。

違法収集証拠証拠排除法則も然りです。

 

考査委員の意図は読みかねますが、自白法則を出題するにあたって捻りを出すために違法収集排除法則との適用関係を問う出題にしたのかもしれません。

適用の在り方を出題し、双方適用されるという二元説の立場に立てば、任意性を検討するにあたり重要な事実と、違法収集証拠排除法則を検討するにあたり重要な事実を整理できるかという点を通して、各論点の理解を問えるという意図もあったのかもしれません。

 

(2) 良い問題?

偉そうなことは百も承知ですが、この出題意図は私には読めませんでした。

 

ア 一元説か二元説か

この適用関係は、ほとんどの基本書にも載っているところですが、違法排除一元説・任意性一元説は実務上とりづらい立場です。

実務では結論が大事であり、適切な結論を導くために必要であれば、よほど論理的に矛盾するものでもない限り、併用される立場をとることに何ら違和感はありません。

自白法則は虚偽の自白を誘発しやすいおそれがあったかという供述者の心理面に着目したもの、違法収集排除法則は取調べ等の手続面に着目したものと考えるのが素直であり、そうであれば双方は矛盾するものではなく、併用して適切な結論を導くことが実務上は望ましいはずです。

 

イ 適用順序

適用順序についても、条文が存在する自白法則から適用するべきという見解もありますが、違法収集排除法則は確立した判例法理であり、事案に応じて適切な結論を導くことができるものから適用していくとしても何らおかしな話ではありません。

 

東京高裁平成1494日判決(百選10版・73事件、11版・90事件)は、

本件においては、憲法三八条二項、刑訴法三一九条一項にいう自白法則の適用の問題(任意性の判断)もあるが、本件のように手続過程の違法が問題とされる場合には、強制、拷問の有無等の取調方法自体における違法の有無、程度等を個別、具体的に判断(相当な困難を伴う)するのに先行して、違法収集証拠排除法則の適用の可否を検討し、違法の有無・程度、排除の是非を考える方が、判断基準として明確で妥当であると思われる。

として、違法収集証拠排除法則から検討しています。

 

この判示からすると論理的に違法収集証拠排除法則が先行するというわけでもなさそうです。

 

推測ですが、違法収集証拠排除法則と自白の任意性の双方の観点から検討し、違法収集証拠排除法則で証拠排除できる心証を持ったことから、先に検討したという可能性もあり得る気がします。

 

違法収集証拠排除法則で証拠排除できれば、後の自白の任意性を検討する必要はありません。高裁も認める通り、任意性の判断は(相当な困難を伴う)ことは間違いがなく、この点を避けたかったのかもしれません。

 

ウ 深く考えず進みましょう

混乱した受験生もいるでしょうが、この手の問題が出たときは、難しく考えず支配的な見解を淡々と論じ次のステップに進んでいくほかないと思います。

考えて悩む時間は他の設問に使った方が良いでしょう。