その3で実務的な観点から分析をしました。
「受験生レベルでは無理」という意見もあるかもしれませんので、その点を考えます。
1.直接証拠や供述の信用性(補助証拠)の議論を答案で書けますか?
(1) 問題の端的な整理
平成21年の刑事系第2問・設問2は
〇実況見分調書は再現自体が甲の自調書の信用性を高める補助証拠としての意味を有する
〇実況見分調書の甲の供述部分や写真部分の内容の真実性が問題となっていないので非伝聞となる
というのが端的な整理になります。
※伝聞と回答しても間違いとは言い切れません。自分なりに検討していれば評価されると思います。
(2) 基本書で解説されている用語ではある
証拠構造・直接証拠・信用性・補助証拠という言葉は、受験生にはなじみはないですが、お手元の基本書には通常言及されているはずの言葉です。
また、実務系の授業をとられていた方は必ず学んでいた用語だったはずです。
なので、出題されても文句は言いづらい気がします。
問題は用語の意味を具体的に理解できていたかということです。
(3) 自白の信用性は判例百選で解説されてはいる
用語の意味を具体的に理解する機会はあったかというと、自白の信用性については(本試験前に発刊されていた)判例百選で取り扱われていました。
解説には考慮要素として
にも触れています。
受験生にはイメージがしづらい分野ではありますが、出題されても文句を言いづらい問題といえるでしょう。
2.要証事実の的確な把握には事実認定の知識が必要
「それって事実認定の話でしょう」
「司法試験は法律の解釈適用が問われるのでは」
というお考えもあるかもしれません。
しかし、少なくとも日本の刑事訴訟手続において伝聞法則の適用の有無を考えるにあたっては、その事案の争点や事実と証拠との関係(証拠構造ともいわれるかもしれません。)を考え、問題になっている証拠が争点等との関係でどのような意味を持つかを検討しなければ、結論を導き出せません。
少なくとも裁判所はそう考えています。
実務家登用試験である司法試験で問われていないかと言われると「問われている」と考えざるを得ません。
ということで事実認定の知識はある程度は必要になってくることになります。
そして、あった方が、刑事訴訟法の問題を読む・解くことが飛躍的に楽になることも間違いありません。
3.問題文にヒントはあるにはあったのでは
以前
司法試験の問題文には(ほぼ)一言一句無駄がない
問題文にヒントがある
という話をしました。
過去の記事もご参照ください。
この問題にヒントはあったでしょうか。
(1) 再現状況と自白調書には重複する事実が詳細に記載されている
ここから先は推測ですが、
問題文の6項には犯行再現の状況と、7項には犯行再現後の実況見分の内容が非常に詳細に書かれていること
その上で、資料1の自白調書をみますと、5項に犯行状況が非常に詳細に書かれていること
がわかります。
自白調書の5項の事実関係と問題文の6項・7項記載の事実関係はほとんど同じことが書かれています。
自白調書が作成された日と犯行再現を行った日は日付が全く違うので、同じことでも重複した記載になることは当たり前かもしれません。
ただ、問題文を作成するにあたっては、
資料1の調書を添付しなくとも、本文中に甲の自白内容を挿入する
問題文6項の再現状況等は「資料1の自白調書の内容通り再現した」などと省略する
といったことも可能であったようにも思います。
私はこの問題を初めて読んだときこの点が気になって仕方ありませんでした。
(2) 一致→信用性というヒラメキ
何度も
「なぜ再現状況と自白調書で全く同じ実を何度も記載しているのか?」
を考えていくうちに
↓
「(客観的状況との)一致は供述の信用性に関する典型的な考慮要素」
↓
「自白調書の信用性を問うているのでは」
というヒントを出しているようにも読めました。
あくまでも推測ですが、時間をかけて問題文を検討するとこういった考査委員の出題意図が見えてくることもあります。
司法試験対策ではこういった分析も重要です。