司法試験を実務から考える

司法試験の論文問題を実務の視点から掘り下げています

その3 別件逮捕・勾留と余罪取調べ(司法試験論文試験 平成23年 刑事系科目・第2問・設問1)

逮捕③・逮捕④と、それらに引き続く身体拘束について検討します。

なお、分量が多いため、別件逮捕・勾留の論点は、その4で触れます。

 

1.逮捕③ 甲の・殺人死体遺棄被疑事件

(1) 罪を犯したと疑うに足りる相当な理由

シンプルに

・死亡したBのパソコンに残っていた甲及び乙の関与を伺わせる交際相手A女のメール①

・甲の携帯電話機にVの死体を遺棄したことに対する報酬に関するBとのメール(問題文4項3段落目)

から認められるということでよいと思います。

 

(2) 逮捕の必要性

殺人・死体遺棄は重大犯罪ですから、当然認められる程度の記載で足りるでしょう。

 

2.逮捕③に引き続く身体拘束

(1) 罪を犯したと疑うに足りる相当な理由

この要件は逮捕と勾留で差異があるとも言われますが、時間がありません。

差異を検討するような事情も見当たりません。

逮捕③と同様認められる。

程度の記載にするほかないでしょう。

 

(2) 住居不定

見落としているかもしれませんが、住居不定の事情はありません。

 

(3) 罪証隠滅のおそれ

甲と乙が口裏合わせをし、犯人性等について罪証隠滅をすることが考えられ(対象・方法)、黙秘をしていることもあり証拠収集が困難な状況でメール①・②のほかに有力な証拠がない本件では実効性も否定し得ない(客観的可能性)。

殺人・死体遺棄罪は重大な犯罪であること、黙秘をしていることから自白している場合と比較すれば、その主観的な可能性も否定し得ない(主観的可能性)。

といったところでしょうか。

 

(4) 逃亡のおそれ

殺人・死体遺棄事件は、検察官が有罪立証できると考えれば公判請求が必至であり、有罪になれば実刑となることはほぼ確実であることから処罰を免れるために所在不明となる可能性がある。

といったところかと思います。

 

(5) 勾留の必要性

罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれが高く、勾留により失われる不利益も見当たらないため、勾留必要性は認められる。

 

(6) 勾留延長

ア 忘れがち

基本書等では被疑者勾留の期間は原則勾留請求の日から10日、例外的に10日間延長されて、最大20日と習うはずですが、具体的に日付を追う意識をしていないと見落とします(なお、身体拘束は被疑者に不利益であるから、初日不算入の例外として、勾留請求日当日から起算されると解釈されています。)。

 

問題文ではやや分かりにくいですが、「勾留延長後の同年6月11日…公判請求した」(問題文7項3段落目最終の文章。)と日付を追わなくともヒントは出されています。

簡潔に答えるにせよ、聞かれていると考えてよいでしょう。

 

被疑者勾留の期間延長は例外であるのに教科書では延長の事由がしっかり書かれていないものは多々あります。

やはり、令状基本問題等の実務向けの書籍を参照するか、過去問を学習する等して補充していくしかありません。

 

イ やむを得ない事由

条文上は「やむを得ない事由」が必要とされています(刑訴法208条2項)。

一般的には

・事件の複雑困難

・証拠収集の困難

・事件の輻輳(ふくそう)

が考慮要素とされ、それらを理由に勾留期間を延長して更に取調をするのでなければ起訴若しくは不起訴の決定をすることが困難な場合などと言われています。

本件では先の2つでしょう。

 

まず、本件は、3名の共犯事件であることが疑われ、関係者が多数と言える事案です。

特に、うち1名のBが死亡しているが甲と乙の関与を伺わせるメールを残している一方、甲と乙が2名が黙秘をしている状況にあることから、被疑者の取調べの以外に(BのメールBの採否や証明力を考えるにあたっては、交際相手であるAの供述も重要になってきます。)関係者の取調べ等を広く行う必要がある複雑困難な事件であることは否定し得ないでしょう。

 

また、問題文を見ると、

(延長前であろうとは思いますが)甲及び乙の自宅を捜索したものの,殺人,死体遺棄事件に関連する差し押さえるべき物を発見できなかった。

ことから、証拠はメールと、甲乙の供述以外には考えられない状況です。

その中で、差し押さえたBのパソコンの復元・分析(問題文3項2段落)が、(延長前であろうとは思いますが)完了していなかったように見えますので、証拠収集が困難、端的に言うとパソコンの解析が未了で延長をしなければ起訴不起訴の判断ができない

という状況にあったといえるでしょう。

 

 

3.逮捕④ 乙の殺人・死体遺棄被疑事件

(1) 罪を犯したと疑うに足りる相当な理由

シンプルに

・死亡したBのパソコンに残っていた甲及び乙の関与を伺わせる交際相手A女のメール①

・乙のパソコンにVの死体を遺棄したことに対する報酬に関するBとのメール(問題文5項2段落目)

でよいと思います。

なお、逮捕③と相当重複するので、かなり端折った方がよいのかもしれませんね。

 

(2) 逮捕の必要性

殺人・死体遺棄は重大犯罪ですから、当然認められる程度の記載で足りるでしょう。

 

4.逮捕④に引き続く身体拘束

(1) 罪を犯したと疑うに足りる相当な理由

この要件は逮捕と勾留で差異があるとも言われますが、時間がありません。

差異を検討するような事情も見当たりません。

逮捕④と同様認められる。

程度の記載にするほかないでしょう。

 

(2) 住居不定

見落としているかもしれませんが、住居不定の事情はありません。

 

(3) 罪証隠滅のおそれ

甲と乙が口裏合わせをし、犯人性等について罪証隠滅をすることが考えられ(対象・方法)、黙秘をしていることもあり証拠収集が困難な状況でメール①・②のほかに有力な証拠がない本件では実効性も否定し得ない(客観的可能性)。

殺人・死体遺棄罪は重大な犯罪であること、黙秘をしていることから自白している場合と比較すれば、その主観的な可能性も否定し得ない(主観的可能性)。

といったところでしょうか。

 

(4) 逃亡のおそれ

殺人・死体遺棄事件は、検察官が有罪立証できると考えれば公判請求が必至であり、有罪になれば実刑となることはほぼ確実であることから処罰を免れるために所在不明となる可能性がある。

といったところかと思います。

 

(5) 勾留の必要性

罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれが高く、交流により失われる不利益も見当たらないため、勾留の必要性は認められる。

 

(6) 勾留延長

事情は甲と同様ですから、認められるということになりそうです。

 

5.逮捕③と逮捕④とこれらに引き続く勾留の条文の要件の書き方

気が付いた方もいると思いますが逮捕③・④とこれらに引き続く勾留の事情は、甲と乙とでほぼ共通です。

 

そしてこの問題は時間が全くありません。

そうすると、逮捕③・④については共通のくくりとして端折るか、甲についてしっかり記述し、乙については1-2行程度で

甲と同様認められる

程度の記載にすることはありうるかもしれません。