司法試験を実務から考える

司法試験の論文問題を実務の視点から掘り下げています

司法試験の過去問の勉強方法 ~平成23年の別件逮捕・勾留の問題を踏まえて~

過去問の勉強の仕方を考えてみます。

 

1.平成23年・第2問・設問1の別件逮捕・勾留の問題を受けて

司法試験の過去問は「早期に」解く・「何度も」解く という以下の記事にてお伝えしましたが、平成23年・第2問・設問1を踏まえて、もう少し具体的にお話ししたいと思います。

 

2.圧倒的に時間がない

その1~その4 で検討したとおり、全ての事情を網羅しようとすると、設問1だけでも圧倒的に時間が足りません。

設問2は伝聞法則ですが、3号書面該当性の検討、要証事実の把握とメールがその要証事実との関係でどのような意味を持つか検討する必要がある問題です。

メールは結構ややこしい証拠で「本来は」丁寧に要証事実との関係を論ずる必要があります。

 

ただ、司法試験では一言一句無駄がないはずなので、全ての事情を使い切ることが正攻法です。

 

事実、問題文を見ると、逮捕・勾留の各要件を検討する事情と、別件逮捕・勾留の適法性を検討する事情は微妙に異なっており、両方きちんと検討することが求められている気がしてなりません。

以下の記事もご参照ください。

 

ozzyy.hatenablog.com

 

3.まずは2時間時間を測って解いてみる

(1) 時間が決まっている試験であること

ではどうすればいいのか。

まずは2時間時間を測って、実際の問題を解いてみることをお勧めします。

なぜなら、試験で求められているのは「時間内に六法片手に問題に回答すること」だからです。

問題文をじっくり読み、基本書、百選や判例解説等を読んで、時間無制限で回答することは求められていません。

 

学習がある程度進んでいれば時間が圧倒的に足りないことに気きます。

そこから反省し「時間内に回答するにはどうすればいいのか」を考えていくことができます。

 

(2) 途中答案は絶対に避ける

ア 点数に大きな差がつく可能性

問題を解く大前提として「途中答案は絶対に避ける」という考えがあります。

途中答案は、回答していない点に「全く点が入らないはず」であることから、他の受験生と大きな点数の差がつくリスクが高いからです。

時間制限がある試験である以上、時間配分は実力以外の何物でもありません(時間が足りないと早々に気が付き、ある論点を飛ばしたり、簡潔に書くことは非常に重要です。)。

「時間があれば解けたのに」というのは厳しい方をすれば言い訳になってしまいますし、考査委員が「時間があれば解けたはずの実力」に配慮して点数を加点してくれる可能性はないと考えるのが自然です。

 

イ 平成23年の別件逮捕・勾留の問題でいえば

たとえば、平成23年の別件逮捕・勾留の問題でいえば、圧倒的に時間が足りませんが、途中答案は避けなければなりません。

そうすると、

逮捕①の要件は1行くらいですませる。

逮捕の必要性は書かないかあてはめをせず「逮捕の必要性も認められる」程度に収める。

引き続く勾留は、罪を犯したと疑う相当な理由は1行か、思い切って端折る。

住居不定は書かない。

罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれの考慮要素については規範定立的なことはせず当てはめる(実務上も学説上も争いがほぼない考慮要素なので、時間に余裕があっても、規範定立的な作業をする必要はないと思います。)。

勾留の必要性も1行か、書かない。

逮捕③・④とこれらに続く勾留の要件は甲と乙でほぼ共通なので、甲だけ検討し、乙については「甲と同様認められる」くらいの極めて簡潔な記載にとどめる。

といった工夫が必要になってきます。

 

(3) 書けなさ過ぎて時間が余る場合

なお、学習が進んでいないと何も書くことができず2時間の時間が余るかもしれません。

 

それでも文章は書けるだけ書くことが大切です。

 

自分の実力と向き合うこと、現状把握することはとても大切です。

足りない部分が浮き彫りになりますし、(ないに越したことはありませんが)悔しさや焦りが日頃の勉強での意欲や知識吸収力を上げてくれる可能性はあると思います。

 

本試験の再現答案作成が推奨されている理由の一つにこの点にあるのだろうと思います。

 

4.出題趣旨や採点実感を読みじっくり問題文を分析検討する

(1) 初見の2時間ですべての事情を理解することは困難

時間が足りなかった場合でも、時間が余った場合でも、時間を測った後に問題文をじっくり分析等することが大切です。

繰り返しになりますが、考査委員が書いてほしいことが正解なわけですから、出題趣旨や採点実感に目を通すことも必須です。

 

平成23年の別件逮捕・勾留の問題でいえば、その1~その4 で検討したとおり、細かい事情がちりばめられています。

しかし、初見の問題で、2時間以内に、細かい事情がどういう意味を持つのか理解できる人はほぼいないと思います。

しかし、司法試験の問題に一言一句無駄はありません。

 

(2) 使えないと思った事情は学習不足と整理したほうが有益

使えない事情があったとすれば、自分の学習がそこに至っていないと整理して、それが何を意味するのかを時間をかけて検討したほうが有益です。

 

そうすることで、まず、自分が意識できていなかった論点を理解することができ、日ごろの学習に役立つ可能性があります。

題材となった判例・裁判例、論点を抽象的には理解できていても、題材となった判例・裁判例の意味を正確に理解できていなかったり、その論点では実際どういう事情が重要になってくるのかを具体的に意識できていないことは非常に多いです。

 

もう一つは、司法試験のクセに気が付くことができるようになります。

たとえば、ですが、平成23年の別件逮捕・勾留の問題は、甲と乙で微妙に事情が異なります。

なので、甲は違法方向で、乙は適法方向かなとか、そういった推測をすることができます。

 

甲が通常逮捕なのに、乙が現行犯逮捕なのは、問題に面白みがないので、別の逮捕の要件を検討してほしいという考えだけなのかもしれません。

が、別件逮捕・勾留の問題としても余罪がないか調べさせて見つかった通常逮捕によるものなのか、尾行していた時にたまたま現認した犯罪の現行犯逮捕なのかでは(たとえいば、警察官であれば、乙を尾行中に、乙以外の人物の犯罪を現認したら、「乙ではないから逮捕しない」というわけにもいかず、逮捕するのが自然でしょう)、身体拘束期間を潜脱する意図で別件を逮捕勾留したかどうかの度合いは異なってくる事情なのではという見方も可能なように思います。

 

(3) 平成23年の別件逮捕・勾留の問題を例にすると

たとえば、被疑事実の認否、前歴が罪証隠滅や逃亡のおそれにつながる事情にあることは受験生の方で意識できている人は少ない気がします。

罪証隠滅の対象には構成要件事実のほか、犯人性に関する事実、情状事実がありえます。

罪証隠滅方法として、口裏合わせ等の供述証拠に関するものがあること、隠すこと以外に積極的に証拠を作出することが含まれることもしかりです。

 

また、検察官には、勾留期間中に起訴・不起訴(不起訴見込みで処分保留で釈放を含む)の判断をしたいという実務的な運用があります。

乙の窃盗事件は、それを踏まえて、示談をした事情に加え、被害感情が緩和したという上申書を提出したという(不起訴以外に結論はないよねという)ダメ押し的な事情を上げて、さらに満期より前に釈放したという事情をあげているはずです。

つまり、窃盗被疑事件は捜査として動いていたということを表す事情です。

 

このあたりも実務系の授業を受けていなければ意識は難しいですし、こういう問題を解くことで実務系の授業を受けるモチベーションにつながる可能性もある気がします。

 

5.合格答案を読む

以上を踏まえて、巷に出回っている合格答案を読むことも重要です。

自分の現在地を知ることにつながるからです。

 

なお、合格答案を読むと超上位の答案の方は出題趣旨を事前に知っていたのではないかくらい完璧な回答です。

 

それ以外の答案は大したことを書いていないと思うかもしれません。

しかし、そこで合格答案のすごさに気が付かなければなりません(このときも、自分が時間を計って作成した答案と比較してみるといいと思います。)。

上位ではない合格答案でも、途中答案の人は非常に少ないですし、多少の論点落ちはあるにしても全体としてムラがなくよくまとまっていることには気が付けるはずです。

公判前整理手続など受験生が容易に答えられないような難しい問題は記述が薄かったり書かれていないこともありますが、逆に受験生が当然書けなければならない論点を落としていることはまずありません。

 

そして、その答案を2時間という少ない時間の中、試験本番という緊張感の中で、まとまった答案を書くことは至難の業です。

 

試験は水物ともいわれますし、今の合格率を考えると運の要素は多分にありますが、合格するべくして合格する人は必ずいて、そういう方の合格にはそれなりの理由があります。

 

6.3~5を繰り返す

3~5を経た結果、少し時間を空けて、再度時間を計って問題を解き、さらに検討することもお勧めします。

 

同じ問題を何度解いても、司法試験の論文試験は難しいですし、時間内に解くことは至難の業です。

その現実を何度も味わうことは自分の現在地を知る上で、大切です。

そして、何度も解いて、膨大な問題文に対する回答を2時間以内にまとめる力を養うことも大切です。

こうしたトレーニングは他の科目にも活きるはずです。

 

また、繰り返すたびに自分の実力も追いついていき、問題文の事情の見え方が変わってきます。

「今まで気が付かなかったが、この事情はこういう使い方だったのではないか。」

と気が付く機会が増えてきます。

そのような機会が増えてくれば必然的に考査委員が求めるもの、司法試験のクセにも慣れていくはずです。

 

7.抵抗感のある方へ

こうした受験テクニック的な学習法に抵抗感を持つ方はいらっしゃるかもしれません。

ただ、目標は、学説を極めたり基本書や判例を正確に理解することではなく、司法試験合格です。

 

実務家になるのか、企業等へ勤めるのか、研究者になるのかによって求められる能力や知識は異なるでしょうが、受験という選択をしている以上、進路は試験を終えた後の話です。

 

司法試験の問題自体は内容的にも分量的にも時間的にも非常に困難が付きまとう難しいです。

もっとも、巷の合格答案を読む限り、一般的な合格水準のレベルが高いかというとそうでもありません(超上位合格答案の水準は非常に高いことは間違いありません。)。

 

目標と手段を整理し、日ごろの勉強方法を考えることはとても重要です。