更に過去問の検討をしていきます。
趣向を変えて公判前整理手続について触れます。
1.なぜ平成28年の問題を選んだか
端的に言えば「公判前整理手続」が出題されたからです。
公判前整理手続は、条文も抽象的で、実務上も運用が定まっていないところもあり、受験生の理解が難しいため、出題はないと思っていました。
が、出題されました。
法科大学院在学中受験へ移行した現行体制で、果たして今後も出題されるかわかりませんが、触れておきたいと思います。
2.なぜ公判前整理手続が出題されたか
実務上、非常に重要だからと考えられます。
公判前整理手続の長期化は裁判所が非常に問題視をしており、実務家登用試験である司法試験である以上、受験生にも基本的なところは学んでおいてほしいという意図があったのかもしれません。
特に裁判員裁判対象事件は必要的に公判前整理手続に付されますが(裁判員法49条)、公判前整理手続が長期化すると証人の記憶の減退等が出てくるおそれを懸念しているようです。
弁護人からすれば公判前整理手続では幅広く検察官に対し証拠開示を求めたいと考え、法律の定める証拠開示の要件に該当するか検察官と争いになったり、証拠の有無の確認や謄写で時間がかかったりで長期化することもままあります。
法曹三者三様の考えが錯綜するため実務上の運用も固まりつつあるようで固まっておらず、なかなか難しい手続です。
そのような難しい手続であるにもかかわらず出題されているということは、それだけ重要視されている手続であると考えざるを得ないでしょう。
司法修習でも力を入れていると聞きます。
3.平成27年決定の知識は必須とはされていなかった
(1) 出題趣旨の言及
公判前整理手続に付された事件の主張制限については、最高裁平成27年5月25日決定(刑集69巻4号636頁)が著名です。当然、刑集搭載判例です。
もっとも出題趣旨を見る限り、平成27年決定を踏まえるところまでは求められていなかったようです。
本試験の約1年前に出された判例については、(評価も定まっていないためか)さすがに正確な理解は問わないという考査委員の考えを読み取ることができる指摘です。
既に問題文の方向性は固まっていて、たまたま最高裁決定が出てしまった可能性もあったのかもしれませんが、これはあくまでも推測です。
なお、調査官解説が掲載された法曹時報(69巻6号)は平成29年6月に発行されていますから、試験後でした。
(2) とはいえ理解は不可能ではなかった
もっとも、調査官による簡易な解説である「時の判例」は、平成27年10月1日発行のジュリスト1485号109頁に掲載されています。
また、試験直前の平成28年4月10日発行ではあるものの、平成27年度重要判例解説でも刑事訴訟法3(174頁)で取り上げられていました。
最高裁判例に敏感な方で、この判例の重要性に気が付けた方は、判例の存在は知ることができたでしょうし、ポイントを押さえることが不可能とまでは言えなかったように思います。
3.その場で考えるしかなかった問題
以上を前提にすると多くの受験生にとってはその場で回答をひねり出すしかない問題で、求められる答案もその限度でよかったということになるのでしょう。