司法試験を実務から考える

司法試験の論文問題を実務の視点から掘り下げています

公判前整理手続 その2(司法試験論文試験 平成28年 刑事系科目・第2問・設問4)

公判前整理手続は受験生には理解が難しい

平成27年決定の知識は問われていなかった

 

とすると多くの受験生にとっては未知の問題についてその場で考えるというものでした。その際にどう考えていくかを検討します。

1.こういう時は趣旨から?

「分からない問題は趣旨に遡って解釈する」というのが法律問題のセオリーです。

 

2.条文を探す

(1) 直接の根拠規定を探す

公判前整理手続に関する条文を探すことが考えられます。

ただ、新たな主張に関する証言を制限する直接の規定はありません。

 

(2) 趣旨に関する規定を探す

直接の規定がなければ、先ほど述べた通り、教科書的には「公判前整理手続の趣旨からさかのぼって」解釈し規範を導き出すということになりますが、試験の現場で、(ほぼ)未知の手続であろう公判前整理手続の趣旨を「自力で」考えるのは難しいと思います。

 

そこで条文を探すと刑訴法316の2Ⅰには公判前整理手続は「充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要がある」場合に付することができるようなので、これが趣旨と言えそうです。

 

であれば

「審理を継続的、計画的かつ迅速に行うという公判前整理手続の趣旨を没却するような尋問は「相当ではない尋問」にあたり制限されるというべきである。」

という規範を定立させることが可能かもしれません。

 

安易な考えという批判も聞こえてきそうですが、違法集証拠排除法則の規範を応用するような発想といったところでしょうか。

その場の思考でそこまでひねり出すことができれば十分ではないかと思います。

 

(3) 316の32Ⅰの「やむを得ない事由」?

なお、条文を探すとこの規定が見つかるかもしれません。

これは「証拠調べ請求」に関する制限規定です。

この条文をストレートに適用すると理解していないと捉えられる可能性があります。

(明確な論文は見つけられませんでしたが、刑法では罪刑法定主義の関係から類推適用が認められていないのと同様、刑事訴訟手続においても適正手続保障の観点から類推適用は当然認められないことになるでしょうから注意が必要と思います。)

 

直接の根拠規定がないからこそ、その際の考えを問うために出題されたのではないかと思います。

 

ただし、多くの人にとって難しい問題であったことを考えると、この規定を手掛かりにして「やむを得ない事由」に準じた何らかの規範を定立できていれば、十分合格水準に達することができたのではないかと推測します。

 

3.具体的にだれがどう困るか考える

(1) 初見で趣旨からキレイにひねり出せるか?

趣旨から考えるがセオリーです。

しかし未知の手続に関する初見の問題で趣旨を直ぐ導き出すのは難しい気もします。

 

最後はすでに述べた通り条文にあたり手掛かりを探すほかありませんが、まずは問題文に出ている事案から具体的に考えてみると問題点や規範のヒントが浮き上がってくることがあります。

 

具体的に考えるにあたっては「結論がどうなるか」という観点から少し極端にみるとよいと思います。

結論を意識する大切さは以下の記事をご覧ください。

 

ozzyy.hatenablog.com

 

(2) 弁護人が困ること

被告人質問を制限されると弁護人は困ります。

もし戊方にいたというアリバイに関する証言をできなければ無罪となるべき人物が有罪になってしまいます。

 

(3) 検察官が困ること

検察官からすれば、戊方にいたという話は初めて耳にすることです。

被告人質問を止めなければ有罪と考えていた被告人が無罪になってしまうかもしれません。

(もっと複雑な話であることは次回以降検討しますが、初見でぱっと浮かぶイメージとしてはこれくらいという趣旨です。)

 

(4) 裁判所が困ること

裁判官も困ります。

戊方の話が事実であれば被告人質問を止めることで無罪となるべき人を有罪にしてしまうかもしれません。

しかし、公判前整理手続と異なることを簡単に話させてしまっては公判前整理手続の意味がありません。他の事件への波及効果も懸念するでしょう。

(もっと複雑な話であることは次回以降検討しますが、初見でぱっと浮かぶイメージとしてはこれくらいという趣旨です。)

 

(5) 具体的に考えると方向性が見えてくる

以上のように、趣旨から考える云々の前に具体的事例で誰がどう困るかを考えてみると「当然に制限できるわけではなさそうor当然に話させて良いわけではなさそう」であることがわかります。一筋縄ではいかないということです。

 

このことからすると趣旨もある意味抽象的なものを立てざるを得ず、最後は「あてはめ勝負」にならざるを得ないことが見えてきます。

 

そのように考えると、上述した、趣旨から考えた規範が、

たとえば「審理を継続的、計画的かつ迅速に行うという公判前整理手続の趣旨を没却するような尋問は「相当ではない尋問」にあたり制限されるというべきである。」

という抽象的なものでも「試験場は問題なさそう」というところまで気が付くことができるはずです。

 

4.結局あてはめ勝負

(1) 考慮要素を考える

問題はあてはめです。

こうした抽象的な規範にならざるを得ない場合には、いわゆる考慮要素をどう考えるかがポイントになってきます。

 

(2) 具体例から遡って考える

初見の問題であれば考慮要素は具体的な事案で誰がどう困るかという点から遡って考えていく他ありません。その意味でも上記3の検討は意味を持ってきます。

上記3の検討からすると、検察官の異議が認められ被告人質問が止めってしまうことによるメリット・デメリットを考慮していくことが基本となるでしょう。

そこからは

・公判で新たに主張しようとする事実の重要性

(裁判の結論にどの程度大きな影響があるか)

・公判で新たな主張をするに至った経緯

(弁護人や被告人に帰責性があるか)

あたりがポイントになるでしょう。

初見であればここまで整理できれば十分なのではないかと思います。

 

(3) 事実の重要性を考慮すべきか?

この手の考慮要素では「事実の重要性」は入れざるを得ません。

なぜなら実務では、特に裁判官は「結論が大事」と考えているからです。

(民事裁判と比較して刑事裁判では実体的真実がより重視されていることからしてもそのような思考になってくるのではないかと思います。)

問題を考えるにあたっても、結論がどうなるかという点には常に目配せをしておく必要があります。

 

(4) あてはめの例

以上から下記のようなあてはめが考えられます。

乙の新たな供述は事件時に戊方にいたというもので、丙方にいた公判前整理手続時の主張とは大きく異なるものであり、このような供述を許せば公判前整理手続を行った意味を没却するとも言いうる。

 

しかしながら、乙は公判前整理手続において丙方にいたと主張し、裁判所からの求釈明に対しても、丙が本名かはわからない、丙方で何をしていたかも覚えてはいないという回答ではあったものの、丙方の住所はJ県内であることなどできるだけ釈明に応じていた。

 

そして戊方にいるというアリバイを主張するに至った経緯は、前回の公判期日後に戊方から手紙が届き戊方にいたことを思い出したというものであり、やむを得ないものといえる。

 

その上で、戊方にいたという事実はそれが真実であれば乙が無罪になり得る事実であるから極めて重要な事実であり、乙に手続保障を与える必要性も高い。

 

これらを踏まえると、公判前整理手続の趣旨を没却するような尋問とまで言うことはできない。

この年の刑事系第2問は設問が4つもありました。

公判前整理手続の問題に時間をかけすぎるべきではなく、この程度にまとめられれば良いのではないかと思います。

それでも相当な答案用紙の分量を割く気がしますが。。